あなたに知ってもらいたいオーストラリア
新聞などで目にするオーストラリア記事の中で「こういう情報こそ日本に紹介してもらいたいよな」と思う記事を抄訳するコーナーです。
第6弾
本場大リーグが伝えるイチロー
Impish Ichiro just starting to open up
"お茶目なイチロー、ようやく始動開始"
"お茶目なイチロー、ようやく始動開始"とでも題しましょうか、今回はオーストラリアからはちょっと離れてメージャーリーグも開幕を目前としたこの季節に相応しく我らがシアトルマリナーズのイチロー選手のインタビューをお届けします。各日本のメディアは昨シーズン後半あたりから、なかなか単独インタビューには応じて貰えずシーズンオフ以降日本のファンもなかなかその素顔に接する機会がありませんでした。今回は現地シアトルポストーインテリジェンサーの女性コロムニストがロッカールームにまで入りインタビューをしたようで日本人記者には見せないような素顔を垣間見る事が出来たのはウレシイ限り、ルーキーイヤーでMVP以下総なめですから今シーズンの目標は?、、ウーンと唸ってしまいますが今年も元気に大活躍して欲しいものです。
by 豪州屋オーストラリア支局
Impish Ichiro just starting to open up
"お茶目なイチロー、ようやく始動開始"
by Laura Vecsey, Seattle Post-Intelligencer
7 March, 2002より
キャンプ地はここアリゾナ州、春の風が清々しいペオリア。今まさに質問する側、答える側にも劇的な瞬間が近付いていますが当人のイチロー選手は全く気にもしていません。
朝のワークアウトが終わりフィールドから戻ったばかりのこの時間、自分のロッカーの前で腰を振って前屈みになっているのでふと見ると、そこでは愛妻が毎朝手作りで持たせてくれるおにぎりの一つ目の包みをむいているところでした。
そばにいたチームメートのエドガーマルティネスが神妙な顔で"フム、ライスボール?"と聞いてます。イチローの答えは単刀直入でただの一言、"ライスボール"。
ここでちょっと読者の方に説明すると、ライスボールとはベースボールより一回り小さくスティームライスをボール状に握った常用食で中心部には特製(色々な種類がある)の具が入っています。感覚としてはサンドウィッチの和風版と云ったところでしょう。するとイチローは混み合ったクラブハウス内を調べるように眺め回すと注意深く大きく一口かじりつきました。
彼の周りではマリナーズの選手達がスツールに座りながらズルズルと音を立ててカップからキーブラーエルブス(TVカーツーンのキャラクターでケロッグ等のシリアル食品のキャラクターも勤めている)でも作りきれない程のクラッカーを一杯浮かべたチリを啜っています。
傍らではマルティネスがツナとサラダをほお張っています。
ちゃっかりしたマイナーリーグの選手たちは球団支給のタダメシを十二分に活用しようと家族10人にも行き渡りそうな量のハムや冷肉をサンドウィッチに一杯挟み身振り手振りでそれを食べています。
イチローは相変わらずライスボールです。
これは習慣となっている儀式のようなもので暇を見てはそのネコ化かとも思わせるようなしなやかな身体をストレッチする時、外野でパントマイムのようにシャドーピッチングを繰り返す様子、バッターボックスに入りジャージの袖を引っ張ったり黒いバットを空に向け一時静止する様子、等など、、彼の準備が整う瞬間です。
昨日のワタシがそんな感じでインタビューの準備が完了です。
さあ劇的なこの瞬間。
いよいよイチロー選手にご対面です。
早速質問開始、です。多分2問程度かな、、、時期はまだ春先ですしイチローはアメリカンリーグのMVPに君臨しておりベースボールフィールドに全く新しい旋風を巻き起こしその神秘的、神懸かり的存在を示している事は周知の事実としてその存在感は大きいものです。
エエー、その"アナタのスイング、、、"とドキドキもんで切り出したワタシ、、"何時もとってもリラックスしているように見えるんですが、、"
答えを待つ間、汗が滲む気がしましたがこの質問は全く無難だったと思います。彼のスイングは既にシーズン半ばの状態になっているんですから。既にこのプレシーズン中にはホームランを打ち、フォアボールを選び(何故か馬鹿げた理由から)大きいのを狙うべきだと論評に書かれた通りの仕上がり具合でその外部の騒音を沈黙させているんですから。イチローは早々に自分に出来る事を証明し又、ベース間を抜いて安打を稼ぎ、盗塁を決め、打点を挙げる事に傾注しているのです。
両足をもじもじしながら彼のスイングについての質問の答えを待っていました。何故なら昨年同様に質問をした際にちょっと間が空いた、と云うか居心地の悪い思いを経験しているんです。 昨シーズン、ボルティモアで既にベースボール神童として大活躍中のイチロー選手にファンの要望に答えて何が彼のマインドをよぎっているのかを聞くために何とも情けない初の単独インタビューを試みたんです。
それはたった一つの質問で始まりそれで終わってしまいました。質問自体は必要不可欠、又、誠実かつ熱狂的な意味でなされたものでしたが結果返答を受ける事もなく茶目っ気たっぷりに頭を廻し、逆にワタシに対する質問で終わってしまったんです。
"如何いう意味ですか、"'このシーズンは自身の期待を超えたか?とは'通訳を介してイチロー選手に逆に問いただされてしまいました。
"期待以上の働きが出来たか、、と云う事は、裏を返せばやる前からある程度期待を持って臨んだと云う事で一年前の当時は自身未だメージャーに来れるかどうかさえ判らなかったんですよ"。
ワタシは恥ずかしさが込み上げるのを感じました。まるでイチロー選手がライト方向へテキサス性のヒットを打ちそれがワタシの目の前にドサッと落ちた様な気がしました。それがインタビューの終わりでした。
その時の気持ちを何と表したらいいか、、まるで修行中の僧侶が(ワタシ、すなわち有名なTVシリーズ、カンフーの主演デイビッドキャラデイーンの役)が武術道場の熟練師範代(イチロー)にもう一度人生そしてイチローについて考え直して来い。用意が整うまで戻ってくるな、と云われたみたいな心境でした。
しかし昨日は思いもかけず不思議で素晴らしい事が起こりました。
イチローは強面の師範代ではなかったのです。
彼はこの野球コラムニストが改めて試みて追求した彼の動作、ムードや考えについての質問に対して全く警戒心を抱いていませんでした。
イチローは開けっ広げで、愛想が良く、笑みを絶やさず、冗談を云ったり聞いたりした時は何度か陽気に身体をよじる程でした。
昨年の春先はミステリアスなイチロー選手のデビューでそれはまるでトヨタの組み立て工場から特別仕立てで直送されて来たばかりと云った感じでした。
幸いに当初付けられた間抜けで下劣な"日本製輸入品"と云うレッテルはすぐに消えてしまいました。
変わりにイチローはバットを振り回す立役者、サムライとしてカーブ、スライス思いのままにベースボールの歴史を刻むが如く憤然と立ち向かって行ったのです。我々がスポーツ霊感と云うかこの種の競技には畏怖の念も持っている事を念頭に置いて。
そして一年後、ここにMVPを引っさげ全日本の孝行息子が戻って来たのです。
彼からは以前のようなミステリアスで無関心な様子が影を潜め、愛想が良く茶目っ気まで窺い知れます。
未だ複雑な事柄になると通訳に頼りますが、英語の質問を熱心に直接自分自身で聴き取ろうとしています。
ではその、、例のバッターボックスに立った時のスイングについて、、
イチローは肩を竦めて微笑みながら。
"NotBad"(悪くないですよ)と彼、"Wassup"(何かある)や"Chillin'LikeBobDylan"(ボブディランみたいに寒エー)、等チームメートのマイクキャメロン、ブレットブーンやマルティネスが教える単語以外にフレーズを覚えつつある事を証明してくれました。
それからイチローは軽く頷くと、それはもっと他の質問を促すような仕草でした。
昨年と違って今年の春季キャンプでは彼の実力は充分評価されており、仕上がりが早くて新顔のピッチャーはスライドステップで投げ込んで来るので3月中はイチローはかかとに重心を置き、そのまま楽にしていれば良いと言う有様です。
イチローはベースランニング、ピッチャーの投げるタイミング、既に充分マスターしているにも関わらず試合そのものをもっと身近なものにする事に集中しています。
"多分そうでしょう"通訳を介してイチローが答えました。
"昨年は自身にとっては調整期間だったでしょう。でも最初の少しの期間だけでそれ以降は大変快適でしたしそれが継続しています。"
日本へ帰っていたオフシーズンの2ヶ月はクレージーだった、、かしら。何と云っても日本じゃ選手としてのイチローの経済効果も大変高く日本自体が自信を取り戻す為には居なくてならない存在ですから、、
"エエ、多分にクレージーな時間もありましたがそれ以外はとても良かったです"との返答。"一度あるホテルでエレベーターに乗り合わせたところ周りの人達がみんなカメラを取り出してボクがただ上がって行くところなのにそれをフォーカスされました。"
次は小泉総理大臣から国民栄誉賞授与の打診を受けそれを辞退した時でした。
賢いイチローとしてはこの栄誉あるニュースを巷に漏らして政府政策の人気取りに利用される事だけは避けたかったのです。
授与を辞退したいとしてイチローが端的に述べた理由は、彼自身未だこの栄誉を受けるに値しないと考える事と栄誉賞とはその優れた功績を振り返って認めたりその人の死後も末永く称える事に意味があると思います。
彼はニヤニヤしながら"そうですよ"、"ボクが死んだ後でしたらお好きなように、、どうぞご自由に、、"
彼が亡くなるだなんて、ね、ほど遠いでしょう。始めたばかりなんですから。
この茶目っ気たっぷりのスーパースターにはまだまだやる事が沢山あるんですから。
まだまだ、実は今はウォームアップしてるだけなんですよ。
考察
まぁ、大リーグにとってもイチローの存在は「特別なもの」として取り扱われる、「いわゆるスーパースター」とでも言いましょうか、記者たち自身も直接イチローに「取材」できることを誇りにも思えるような文面です。当シアトル インテリジェンス紙は東京で言う読売新聞のようなマリナーズONLYの地元紙ですが、こちらの記者でさえ「イチロー」に対しては一目置いている様子が翻訳文より原文を読んだ方が良く伝わってくるのが興味深い点です。
でありまして、イチローのことを知りたければ日本のスポーツ紙を読んだ方がよっぽど詳しくわかるわけでして、記事内容についてはどうでもいいのですが、豪州屋が考えるにはもしイチローのような日本人スーパースターが「オーストラリアのラグビー選手」にいたとしたら、地元新聞ではこのような表現はされていただろうか?なんて考えてしまいます。 日米豪のメディアの違いと言いましょうか、例えばオーストラリアのスポーツ記事はどちらかと言うと口語体に近いものが多く、つまり選手と平等の立場で記事が書かれることが多いのはマイトシップの表れのような気もしてきます。あるいはヒーローと読者の距離というものが国によって異なるのではなんて想像してみたりします。 事実関係は今後時間かけて分析するとして、ともあれイチローがおにぎり(ライスボール)を食べていたとしたら、オーストラリアではそれを食べたければSUSHI TRAINで売っている!とかなんて記事になったりするのかな?。
当コーナーは豪州屋が勝手に抄訳しているため、他への転載はご遠慮願います。

