まき子の「アボリジニのむかしばなし」

第3話 コアラになったクーボー

コアラはオーストラリアで最もよく知られている動物ですが、その生態となると、逆にわからない点が最も多い動物でもあります。 アボリジニのことばで「コアラ」には、「水を飲まない」という意味があります。コアラはユーカリの葉を食べますが、その葉に含まれる水分だけで足りるため、ほかの動物のように水を飲まなくても生きていけます。それがなぜなのか、由来がわかるお話です。


アボリジニの絵画昔むかし、クーボーというみなしごの男の子がいました。アボリジニの人びとは伝統的に、部族の子どもを大事にし、よくめんどうをみるのですが、このクーボーの親類たちは、この子の世話を全然しませんでした。 クーボーは食べ物もろくに与えられず、いつもおなかをすかせていました。日照りがつづき、ほんのわずかな水でもみんなで平等に分けなければならないという掟がくだされたときも、クーボーは一滴の水さえ分けてもらえませんでした。 ある日、キャンプ(注1)の男たちは狩りへ、女たちは子どもをつれて食べ物をさがしに出かけました。 クーボーはひとり取りのこされてしまいましたが、親類たちはそのことを気にもとめませんでした。それに、クーボーは弱っているため起きられないだろうと思い、だれもクーラモン(注2)をかくしたりはしませんでした。

「キャンプにいるのは、ぼくひとりだけだ」 クーボーはみんなが出て行くのを見とどけると、全身の力をふりしぼって起き上がりました。そして、水がある所まではって行き、冷たい水をゴクゴクと飲みました。 「あぁー、なんて、おいしいんだろう」 クーボーは少し元気になったような気がしました。 「よぉし、今までの仕返しをしてやるんだ」 クーボーはもう、のどがかわいて困らないようにと、キャンプにあるクーラモンをひとつ残らず集め、それをかかえてユーカリの木にのぼってしまいました。 クーボーは木の上に静かにすわり、不思議な魔法の歌を口ずさみました。前に一度だけ教わったことがある歌でした。 すると、どうでしょう。信じられないことが起こりました。すわっていた木が高くなり始めたのです。少しずつ、少しずつのび、とうとう、キャンプのどの木よりも高く大きくなっていました。

その日の夕方、みんながキャンプにもどって来ました。今まで見たこともない巨大な木が、キャンプの真ん中にそびえ立っているのですから、だれもが息をのみました。 そして、クーボーがその木のてっぺんにいて、それも、キャンプの貴重な水を全部、 木の上に上げてしまったことに気がつくと、それはもうカンカンになっておこりました。 「おりて来い!いますぐおりて来るんだ、クーボー!」 「おれたちの水を返せ!どうするつもりなんだ」 みんなは必死にさけびましたが、クーボーは聞こえないふりをしました。 男たちが木にのぼろうといどみました。でも、クーボーが上から少しずつ水をたらすので、手がすべって途中で落ちてしまうのでした。 「来られるもんなら、来てごらんよ!」 何人も何人も試みましたが、だれも、てっぺんまでは登れませんでした。 「水が飲みたいよう〜〜。のどがかわいたよ〜〜」 とうとう子どもたちは泣き出しました。みんなはこの日、何時間も歩いたのでつかれ果てていました。暑い日だったので、のどもカラカラでした。

やがて、みんなで相談し、魔法がかけられる長老にたのむことにしました。長老は魔法をかけて木にのぼることができました。上からずっと見ていたクーボーは、長老が自分の所へジリジリと近づいてくると、体が震えました。クーボーは木のてっ ぺんにいたのでにげ場もなく、どうすることもできません。 長老はクーボーの所まで来ると、手かげんもせずはげしくたたき、クーボーの体を強くゆさぶりました。 「お願い、かんべんして。わけを聞いてください!」 でも、長老は耳をかしません。クーボーを頭の上に高くかかえると、そのまま思いっきり、地面にほうり投げてしまったのです。

木の根元にたたきつけられた瞬間、打ちのめされたクーボーの体は、ぴくりとも動きませんでした。でも、次の瞬間、クーボーは小さな少年から、今まで見たこともない姿にかわっていたのです。みんなは自分の目をうたがいました。 体はふわふわの毛でおおわれ、大きな丸い耳があり、鼻は黒くて大きく、つめはするどく長く……いったい何が起きたというのでしょうか。 実は、クーボーの先祖の精霊(注3)がずっとこのいきさつを見ていて、救いの手をさしのべたのでした。 コアラの姿に変身したクーボーは、近くのユーカリの木に登って行きました。その後ろ姿には、ほかの動物にあるようなしっぽはついていません。大きな幹をするするとのぼると、あっという間にユーカリの葉のかげにかくれてしまいました。 さあ、これではもう、どうすることもできません。魔法をかけた長老でさえ、このできごとにおそれおののき、もう手だしはできませんでした。 この不思議なできごとを目のあたりにしただれもが、それ以来、クーボーをおそれて近づこうとはしませんでした。 クーボーももちろん、ほかの人のクーラモンを取ったりすることはなく、ユーカリの高い木にのぼったまま、おとなしくしていました。

精霊はコアラのクーボーに、ほかの動物が食べない、特別の食べ物、ユーカリの葉を与えたのです。ユーカリの木の上で一日をすごせるコアラは、思うぞんぶん葉が食べられ、もう、おなかがすいて困るというような心配はありません。それに、ユーカリの葉を食べていれば、水を飲まなくても生きていけるようにしてもらったのです。(おわり)

  • 注1:アボリジニが狩猟や採集活動をするときの拠点
  • 注2:樹皮や木で作られた水入れ
  • 注3:アボリジニの人びとの守護神。魔法の力を持つ

 

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