まき子の「アボリジニのむかしばなし」

第4話 太陽と笑いカワセミ

笑いカワセミはカワセミ科では一番大きく、全長が四十五センチもあります。大きなくちばしが特徴で、オーストラリアを代表する鳥の一つです。 笑いカワセミの声は、しわがれてかん高く、人間の笑い声によく似ています。アボリジニの人びとからは「夜明けを告げる鳥」とよばれ、大事にされてきました。その由来と、太陽がどのように作られたかについてのお話です。


クッカバラ遠い昔、この世界にまだ人間がいなかった時代、空には太陽もありませんでした。月と星からとどく、ほのかな明かりのもと、鳥は地面の近くを飛ぶだけで、動物たちははうようにして歩かなければなりませんでした。 ある日、エミュー(注1)とブロルガ(注2)が広い平原の真ん中で出会いました。 どちらのヒナがかわいいかで、口げんかを始め、そのうち、くちばしでつついたり、追いかけ回したり、だんだん、けんかがはげしくなっていきました。 突然、ブロルガがエミューの巣にかけよると、中から大きな卵をひとつひったくり、力いっぱい空へほうり投げました。卵は高く高く舞い上がり、なんと、神様の住む世界まで上がり、そこで破裂してしまったのです。 黄身があちこちにちらばり、精霊たちが集めておいた、たきぎにかかると、そこに火がついてしまいました。炎は赤や金色になって広がり、下の平原まで光を投げかけました。 動物たちはまぶしくて目が開けられず、びっくりしました。でも、まわりがこんなにはっきり見えたのは初めてだったので、喜び合いました。実は、この火が太陽の始まりなのです。空の精霊たちも地上の景色に見とれ、ため息をつくほどでした。 「美しい山々、風にたなびく緑色の草原、清らかな水の流れる川、すばらしいわ」 「このながめが見られないとは、もったいない……」 精霊たちは、この火を絶やさないようにと、ほかの精霊にもたのんで、たきぎをたくさん集め、山積みにしました。 さあ、大きな大きな火を燃やす準備はととのいました。でも、ここで、何も知らない動物たちが、何事が起きたのかとおどろくのでは、と心配になりました。 そこで、精霊たちは明けの明星をかがやかせ、それを太陽の出る前ぶれにしてみました。 でも、これに気がついた鳥や動物はごくわずかで、ほとんどは気にもとめず眠っていました。

精霊たちは、太陽が昇る前の合図として何か音を鳴らしてはどうかと考ました。そこで、地上に降りて音の出るものを探すことにしました。 ある夜、笑いカワセミが鳴きながら飛んで行くのを聞きました。 「そう、そう。この声。この声がぴったり。これに決めよう」 精霊たちはすぐに、笑いカワセミをよびました。 「おまえのかん高い、そうぞうしい声を聞いたら、ぐっすり眠っている者でも、目を覚ますに違いない。毎朝、明けの明星が出る時、みんなより早く起きなさい。それも、太陽が昇る前に。そして、ありったけの声を出して鳴くのですよ」 「おやすいご用ですとも。わたしは大声で鳴いている時が一番楽しいんですから。それに、わたしの声をみんなが聞いてくれるなんて、こんなに幸せなことはありません」 次の日、笑いカワセミは明けの明星が空にかがやくのをたしかめ、大きな大きな口を広げ、力強く鳴きました。 「ギャ〜〜ハッハッハッ、ワァ〜〜ハッハッハッ」 笑いカワセミの声は、平原いっぱいに響きわたり、生き物という生き物すべてが、目を覚ましました。そして、美しい朝日をずっとながめていました。 最初、炎はほのかだったのが、だんだん大きく熱くなりました。昼間、その火はこうこうとかがやき、夕方になってだんだん弱く、熱さもおさまりました。 そして、一日が終わるころになって炎はしぼみ、ピンクと黄色のやわらかい色合いで夕日を灯しました。 夜になると、精霊がその残り火を雲でつつみかくしてしまいました。翌朝、精霊はしまっておいた残り火から、また別の火をつくりました。それを毎日毎日、くり返して来たのです。

アボリジニの子どもたちは、笑いカワセミの大きな口や変な声について、冷やかしてはいけないと、教えられてきました。 「もし、笑いカワセミが鳴くのをやめてしまったら、太陽ももう出てきてはくれないのだから……」と。 もし、この約束をやぶって、からかい半分に笑いカワセミのまねをしたりすると、糸切り歯の上に、もうひとつ別の歯が重なって生え、みにくくなると言い伝えられてきました。(おわり)

  • 注1:ダチョウに似た、翼がない大きな鳥
  • 注2:淡い灰色のツル

 

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