まき子の「アボリジニのむかしばなし」
第8話 カラスはなぜ黒いの?
むかしむかし、オーストラリアにすむカラスの羽は、キラキラと美しく光る銀色でした。でも、その羽のせいで、ほかの動物やアボリジニの人々にきらわれてしまいます。 カラスたちは羽の色を変えようとして、とんでもない方法を考え出しました。勇気あるカラスたちの姿がえがかれたお話を紹介しましょう。
むかしむかし、カラスの羽は銀色で、大きな群れをつくってくらしていました。ある嵐の日のこと、強い西風にのって、何百というカラスの群れが、アボリジニの人たちのキャンプの近くに飛んできました。
カラスたちは高い木に巣をつくり始め、ここに住むことにしたようです。
毎朝、明るくなると、カラスはけだるそうに空へ高く高く舞い上がりました。そして、強い風がふくと、丘の上、平原の上をすべるように楽に飛ぶことができました。カラスの銀色の羽は、日ざしを浴びてキラキラ光りました。下から見ると、それは星がまたたいているようにも見えるのでした。
カラスたちはこの場所が気に入り、丘や谷、川、木の位置まですべておぼえ、いろいろな場所を自由気ままに飛ぶのを楽しんでいました。
でも、ひとつだけこまったことがありました。ほかの鳥たちがカラスの羽が美しくかがやくのをねたみ、からかったり、悪口を言ったりするのでした。 「ねぇ、見て。あのカラスの飛ぶかっこう……」 「見てごらん、光ってはいるけど、古ぼけた羽よ」 動物たちは、カラスの羽がまぶしいくらいにピカピカ光るので、こわがっていました。カンガルーやエミュー(注1)は、はるか遠くの平原ににげてしまいました。トカゲやヘビは木や岩のかげにかくれ、じっとしているほかありませんでした。 また、アボリジニの人びともカラスにはいらいらさせられるばかりでした。 「狩に出ても、動物がさっぱりいない。どこへ行ってしまったんだ……」 「どうやって食べるものを見つけたらいいんだ……」 みんな、おなかが空くにつれ、いかりもつのってきました。カラスが近くに来ると、にぎりこぶしをあげてどなりました。 「あっちへ行け!じゃまするな!」 「おまえたちのせいで、みんな、こまっているんだぞ」 カラスたちはあわててにげました。 「カァ〜カァ〜、みんな、どうしておこっているの?」 「ぼくたち、何か悪いことしたかなあ?」
カラスたちは元気のない顔をして集まりました。 「みんな、わしらをきらっているようじゃのう……どうしたらいいんじゃ」 長老のカラスの顔から涙がつたって落ちると、それを見たカラスたちがいっせいに泣き出しました。もの悲しい泣き声がブッシュにひびきわたり、ほかの鳥や動物たちは何事が起きたのかとおどろきました。 次の日も、また次の日もカラスたちは泣きつづけました。このままずっと泣きやまなかったらどうしようかと、動物たちは心配になりました。何百というカラスの涙がたまって川になり、そして涙の湖さえできてしまったのですから……。
さて、どれぐらい泣きつづけたでしょうか。涙もかれてしまったのか、ある日、とうとうみんな泣きやんだのです。 「これから、ぼくたちはどうしたらいいのでしょうか?」 みんなにたずねられ、長老のカラスは考えこみました。 「きっと、わしらのこの色、この銀色の羽のせいじゃ。何か、ブッシュの世界と調和するような色にかえられないかのう」 若いカラスが答えました。 「アボリジニの人たちは黒っぽい肌の色をしています。同じ黒にしたらどうですか?」 「でも、どうやって……」 カラスたちは、アボリジニの人たちがときどき、白いオーカー(注2)の色を体にぬることを思い出しました。それと同じように、黒いオーカーをぬったらいいと考えたのです。 さっそく、みんなで黒いオーカーをさがしに出かけました。でも、どこを探しても見つかりません。赤い砂の丘に飛び、砂の中をひっかきまわしましたが、出てくるのはやっぱり赤い砂ばかり。木のしげみの奥までさがしても、ねばねばした樹脂(注3)しか見つけられませんでした。 つかれはてたカラスたちは木の上に羽を休めました。その下では、アボリジニの女の人たちがちょうど、まきを燃やして肉を焼いていました。 よく見ると、火に入れる前には赤かった肉が、火から取り出したら黒くかわっているではありませんか。 「あれだ!黒くなるには、火の中に入ればいいのさ」 「そんな、そんなこと、できっこないよ……」 一週間後のことです。アボリジニの男の人たちがブッシュのかれ草に火をつけました。これは、新しく緑の草が生えてくるようにと、伝統的につづけられていることなのです。 長老のカラスがみんなをよび集めました。 「ここで火を待つのじゃ。わしが合図するまで絶対、動いてはならんぞ」 カラスたちは言われるままに火を待ちました。でも、足も体もブルブルふるえ、止まりませんでした。 かれ草、かれ葉に火がつくのは早く、音をたてながら火は近づいてきました。しげみや木のあるところでは炎が赤あかと、高く燃え上がり、ゴウゴウとうなりをあげるほどでした。 カラスたちは目をつぶってがまんしました。カラスたちの回りをかこんでいた草に、とうとう火がつきました。 なんて勇気があるのでしょう。一羽もにげるものはいませんでした。みんな羽を黒くしたいと願うあまりに……。
長老の声がしました。 「終わった、終わったんじゃよ、みんな……よくやった」 カラスたちはおそるおそる目を開け、あたりを見回しました。ブッシュは黒く焼けこげていました。そして、おたがいに顔を見合わせながら、身ぶるいしたのでした。 皮だけがのこって、しわだらけの真っ黒こげの姿に、だれも何も言えませんでした。銀色のきれいな羽は全部、焼け落ちてしまったのです。 「みんな、勇気があって、とてもりっぱじゃった。羽はすぐ生えてくるだろうから、心配することはない」 長老はみんなをほめました。 この後、カラスたちは新しい羽が生えてくるまで、かくれてくらしました。そして、もし、また銀色の羽が生えてきたらどうしようかと、そればかり考えていました。 何日かたって、やっとカラスたちが姿をあらわしました。なんて、かっこいいんでしょう。新しい羽は真っ黒で、ツヤツヤかがやいていました。 今、オーストラリアにはいくつか塩水湖があります。アボリジニの人々は、そのような湖はむかし、銀色の羽のカラスが流した涙でつくられたものと、語りついできました。(おわり)
- 注1:ダチョウに似た、翼がない大きな鳥
- 注2:黄色、赤色の粘土で、絵の具の原料
- 注3:木の幹から出てくる液、やに
