まき子の「アボリジニのむかしばなし」

第2話 なぜ毛虫はちょうちょうになるの?

空を飛びたいと思っていた毛虫は、ある日、願いがかない、美しいちょうちょうの姿に変身することができました。それは、どうしてでしょうか。 また、アボリジニの伝説には、ウィリー・ワグテイルといういたずら好きの小鳥がよく登場しますが、このお話では、風変わりな巣づくりをする由来にもふれています。


ARTこの世界がつくられてまもなくのころのお話です。 ある日、小さな精霊(注1)がブッシュ(注2)の葉っぱのかげで休んでいると、毛虫が通りかかりました。 「きみはだれ?」 毛虫が精霊にたずねました。 「わたしの名前はビレーブ。植物や木のお世話をしているの。それにお花とか、まだ何も色がついていないものを、きれいな色に染めてあげているのよ」 精霊はかなりつかれているように見えました。 「何かお手伝いしようか?」 「そうねぇ、せっかくだけど、毛虫さんに手伝ってもらえるようなことは、あんまりないわ」 精霊は気の毒そうに答えました。 「向こうの沼地に鈴の形のようなお花があるの。これからそれを黄色くぬらなくちゃいけないから、じゃあ……」 「待って、待って。じゃ、絵の具を運んであげるよ」 毛虫はどうしても精霊の手伝いをしたいとたのみ、ビレーブもそれをゆるすことにしました。

それからしばらく、毛虫は精霊のために絵の具をせっせと運びました。赤や黄色の絵の具が毛虫の体にこぼれてもぜんぜん気にせず、手伝いを楽しんでいるようでした。 ある日の夕方、精霊は夕焼けに染まる雲をぬるため、西の方へ飛んで行きました。毛虫は待っているしかありませんでした。そこへ、いたずら好きな鳥、ウィリー・ワグテイル(注3)が来ました。 「きみも空を飛ぶ練習をしたらどうだい?」 「どうして、ぼくが飛ぶなんて……羽がないのに、できるわけないじゃないか」 毛虫は、なっとくがいかないようすで言いました。 「じゃ、いっしょにおいで。どうしたら羽が生えるのか、教えてあげるよ」 ウィリー・ワグテイルは毛虫を近くのブッシュにつれて行きました。 「いいかい?ここのブッシュの葉っぱは魔法の葉っぱなんだ。これを全部食べられたら、羽が生えてくるのさ」 「ほんとう?ぼく、食べてみるよ」 毛虫はすっかり信じこんで、葉っぱをむしゃむしゃ食べ始めました。

毛虫は何日もせっせと精霊の手伝いをしました。この日は朝から、ランの花がさきはじめたお花畑へ行き、午後はイチゴ畑に行って、いろいろな種類の赤の絵の具を、何度も何度も運びました。 「毛虫さん、毎日毎日お手伝いしてくれてありがとう。おかげで、仕事がはかどるわ」 「いいえ、お礼なんか……。初めにお願いしたのはぼくの方なんだから……」 「でも、つかれているんじゃないの?いつでも休んでいいのよ」 毛虫があまり元気がないようなので、精霊は心配になって言いました。そのはずです。毛虫はウィリー・ワグテイルに会ってからずっと、夜もほとんど眠らずにブッシュの葉っぱを食べていたのですから……。

ある夜、毛虫が眠い目をこすりながら、いつものブッシュで葉っぱを食べていると、近くの木からクモがおりて来て話しかけました。 「おやおや、ずいぶん太ったんだね。だいじょうぶかい?そんなに太っては歩くこともできなくなってしまうよ」 「もう少しなんだよ、おじさん。ここの葉っぱを全部食べられたら、羽が生えてくるんだって!ウィリー・ワグテイルが教えてくれたんだ」 「なんてこった……。いいかい、よく聞くんだよ。葉っぱを食べたって、羽が生えて鳥のように飛べるわけがない。丸まると太らせたのは、きみをおいしく食べたいからなのさ」 「えっ、何だって。ぼくに葉っぱを食べさせたのは、そういうわけだったの?どうしよう、どこかにかくれなくっちゃ。クモのおじさん、お願いです。どうか、ぼくを助けて!」 「よし、急ぐんだよ。もしかしたら、あいつが見にくるかもしれないからね」 クモは毛虫に、まず小枝と枯れ葉を集めてくるように言いました。それから、クモの巣の糸でそれを巻いて袋のような形にしました。そして、毛虫をその中にかくれさせ、低い木にくっつけたのです。 毛虫は袋の中にすっぽりと入ると、安心したのか、すぐに眠ってしまいました。 クモは次の日の朝、様子を見にくることにしました。

実は、毛虫のそれまでのようすをずっと見ていた精霊がいました。メロングという精霊で、下界の生き物の行いを見て、その善悪を裁く役目を言いわたされていました。 メロングは感心しながら見ていました。つかれていても毎日毎日、ビレーブの手伝いをした毛虫に何かほうびを与えることにしました。そして、毛虫が眠っている間に、美しい色の羽をつけてあげたのです。 毛虫は目を覚ますと大よろこびし、ビレーブに見せようと、すぐに飛びたって行きました。 その日の午後、ウィリー・ワグテイルがブッシュに現われました。毛虫が十分に太っていたら、きょうこそは食べてしまおうと思っていたのです。 でも、ブッシュの葉っぱはほとんど食べつくされているというのに、毛虫はどこにも見当たりません。不思議に思っていると、クモがやって来ました。 「おまえさん、毛虫をさがしているんだろう。毛虫だったら、あそこだよ」 クモが指さしたのは、あざやかな色の美しいちょうちょうで、ひらひらと優雅に飛んでいました。 「そんなこと、あるわけがないさ。ただ葉っぱを食べただけで、羽なんか生えるわけがないだろう」 「そうじゃないんだよ。毛虫は小さな巣の中で眠っていたのさ。そして今朝、目が覚めたら、みごとな羽が生えていたってわけなのさ」 「そうか、よぉし。毛虫にできたのなら、おれにだって……」 ウィリー・ワグテイルは小枝と枯れ葉を集め、クモの巣の糸を使って同じように巣をつくりました。今もなお、あきらめずにそうやって試していますが、まだ、ちょうちょうのような色あざやかな美しい羽は生えてきてはいません。 毛虫はちょうちょうになってからも、精霊の手伝いをつづけました。今でも、ビレーブを背中に乗せて、花から花へと飛び回っているそうです。(おわり)

  • 注1:水の精、森の精などのような妖精のこと
  • 注2:低い木におおわれた茂み、やぶ
  • 注3:ツバメに似た小鳥で、長い尾をいそがしそうに左右にふる

 

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