まき子の「アボリジニのむかしばなし」

第1話 カモノハシは鳥なの? 魚なの? 動物なの?

カモノハシは鳥や爬虫類のように卵を産みますが、体毛があって、子どもを乳で育てるという点では、哺乳類の特徴を持っています。この種類の動物は、世界でカモノハシとハリモグラだけで、単孔類とよばれています。 カモノハシは、どの地域のアボリジニの人びとからも尊重され、昔から、カモノハシが川で泳ぐのを見たときは、幸運のきざしとされてきました。このお話で、その理由がわかるかもしれません。


#むかしむかし、鳥の仲間、水の中の生き物の仲間、動物の仲間たちは、どのグループが一番すぐれているか競い合っていました。ある日、いろいろな種類の鳥が集まって特別な会を開き、自分たちが一番すぐれていることを証明しようとしました。 鳥たちはこの会に、カモノハシを招待することにしました。 「カモノハシをぼくたちの仲間にしようよ」 「そうよね。卵を産むし、カモのようなくちばしがあるもの」 カモノハシはその集まりに出てみました。鳥たちが一番すぐれ、重要なのだと宣言するのを聞いていました。それには、空を飛べるのは自分たち鳥だけだから、というもっともらしい理由がつけられていました。 「あのぅ、わたしはとべないんだけど……」 エミュー(注1)のことばに、ほかの鳥たちはこまった顔をしました。 「でも、ここにいるだれよりも、ずっと速く走れるわよ」 エミューがそうつけくわえて言うと、 「そうよ、そのとおり。心配することないわよ」 そばにいた鳥が答え、問題はあっさりと解決してしまいました。それから鳥たちは、カモノハシにも仲間に入ってもらいたいと言いました。 「いいえ、いいえ、とんでもない。この集まりによんでもらったのはうれしいんだけど、ぼくは鳥じゃないし……」 カモノハシははずかしそうに答えました。 「ねぇ、カモノハシさん、わたしたちと違うところはいくつかあるけれど、みんな、ぜひ、仲間に入ってほしいのよ」 「でも、ちょっと考えてみないと……」 カモノハシは後で返事をすることにして帰りました。

水の中の世界でも、話し合いが開かれていました。魚たちもまた、水の中を泳げる自分たちこそ、一番なのだと認め合いました。それにこの世界は、陸地より海の方が広いのだから、という理由もありました。 みんなを代表して、大きい魚がたずねました。 「カモノハシはどうする?水のある場所に住みかをかまえ、水かきを持っていて、じょうずに泳げるよ。われわれのような一流の仲間に入ってもらったらどうだろう」 みんなは手をたたいて賛成しました。カモノハシは人気があり、もし、仲間に入ってくれたら、水の中の生き物にとって、強い味方になるのでした。 さっそく、みんなで会いに行くことになりました。 カモノハシはおどろきましたが、魚たちからも気にかけてもらって、うれしくないわけがありません。でも、仲間に入るかどうかは、 「ちょっと考えてみなければ」と伝えました。

ちょうどそのころ、この世の動物が勢ぞろいして、同じような集会を開いていました。 カンガルーがまず、意見をのべました。 「われわれが一番すぐれているさ。強いし、速いし、鳥や水の中の生き物にくらべ、なんてったって、知性があるからね」 「わたしたちが一番、わたしちが一番」 コアラ、ワラビー(注2)、ウォンバット(注3)など、みんなが大声で賛成しました。 カンガルーがつづけました。 「カモノハシを仲間に入れようか。われわれと違うところもあるけれど、陸の上で遊ぶし、体が毛でおおわれているのは同じだからね」 みんなが認め、代表として選ばれた動物たちが、カモノハシの家へ向かいました。 また、別のグループが現われたので、カモノハシはびっくりしました。でも、動物たちの話を聞くと、カモノハシはニコニコしながら言いました。 「考えてみます。来週になったら返事をしますから」

三つのグループからさそわれたカモノハシは、次の日、家族と話し合ってみることにしました。 「鳥、水の中の生き物、動物……どのグループに入ったらいいのかなぁ」 カモノハシがたずねると、横にいた奥さんがまず答えました。 「ひとつ選ばなくてはいけないの?だったら、そうねぇ、鳥のグループかしらね。わたしは卵を産むから……」 子どもたちもそれぞれの考えを言いました。 「お父さん、ぼくは水の中の生き物がいいな。泳ぐのが得意だし、水の中の世界は最高だと思う!」 「わたしは動物のグループがいいな。みんなすてきな毛でおおわれているもの。それに、わたしたちのこの毛だって、つやつやして、だれにも負けないくらいきれいよね……」 「う〜ん、弱ったなぁ、ますますわからなくなってきた」

カモノハシは、友だちのハリモグラ(注4)に相談してみることにしました。 ハリモグラはカモノハシの説明をじっと聞いてから、口を開きました。 「ぼくだったら、鳥のグループにくわわるだろうね。卵を産むし、ぼくらの祖先には羽毛があったからね」 「へぇ〜!知らなかったよ、おどろいたなぁ……」 「でも、それはまた別の話だから……。よく考えて、きみたちが決めるのが一番さ」 カモノハシは頭をかかえてしまいました。何度も何度もまよい、時間をかけて考えました。 家へもどったカモノハシは、鳥と水の中の生き物、そして動物たちにそれぞれ伝言を送りました。カモノハシはみんなを家の近くの水辺によぶことにしたのです。いがみ合うことなく、みんないっしょに集まるよう伝えたのでした。 さて、みなさんは想像できますか?種類の違う生き物が、そんなにたくさん集まったときのさわがしさを……。

カモノハシが川岸の土手にある穴の家から出てくると、みんなはいっせいに静まり返りました。 「きょう集まってくれたみなさんは、みんな、わたしたちの友だちです」 心をこめて話し始めました。 「鳥さんたち、わたしの妻も、みなさんと同じように卵を産みます。水の中の生き物のみなさん、わたしたちも水にもぐり、えさをさがします。そして動物のみなさん、わたしたちも陸の上で遊び、体は毛でおおわれています」 みんなは、いよいよ、自分たちの仲間がえらばれるのだと、ドキドキしていました。 「神様バイアミーが、わたしたちを少しずつ、みなさんに似せてつくってくださったことに、わたしたちは感謝しています。わたしたちは、それぞれのグループのみなさんと、友だちになりたいのです。まよいましたが、結局、どのグループの仲間にも入らないことに決めました」

たちまち、信じられないといった声がわきあがりました。でも、カモノハシは勇気をふるってつづけました。 「これはわたしたちからのお願いです。みなさんがわたしたちを見たときはいつでも、バイアミーがわたしたち家族をこのような形に、みなさんそれぞれを、今のみなさんのようにつくってくださったことを、思い出してほしいんです。それぞれが違う個性を持った、特別な存在なのだということを、わたしたちは認め合っていくべきだと思います……」 カモノハシはもうそれ以上は話すことはないというふうに、おじぎをしました。 カモノハシの話を聞いて、みんなはシーンとなりました。でも、どこからともなく拍手がわき起こり、大きな響きとなって、しばらくやむことはありませんでした。 みんなはカモノハシの言ったことを深く考え、おたがいの価値を認め合い、尊重していかなければならないということを悟ったのです。 前より賢くなったみんなは、その場からゆっくり、静かに、そして礼儀正しく去っていきました。(おわり)

  • 注1:ダチョウに似た、翼がない大きな鳥
  • 注2:小型のカンガルー
  • 注3:アナグマに似た有袋類の動物で、地面や木の根元に穴をほって住む
  • 注4:全身が毛の変化したとげでおおわれている。主にアリを食べる

 

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