まき子の「アボリジニのむかしばなし」

第9話 ワラタの花の秘密

ワラタの花はニュー・サウス・ウェールズ州(州都はシドニー)の州の花になっています。茎が長く、花 の直径は十センチ以上もあり、色は深紅、ピンク、白とさまざまです。 どうしてワラタの花はこんなに独特な形をしているのでしょうか。ワミリという心優しい狩人が主人公の お話を紹介しましょう。


# 昔、ワミリという名の狩りの名人がいました。どんなときにでも、動物の足あとを手がかりに獲物をさがしだし、ワミリが放ったやりは、獲物をはずすことはありませんでした。 ワミリは部族の仲間のために、いつでも狩りをしてあげました。 「この肉、全部持っていっていいよ」 「おまえさんの分はいらないのかね?」 ワミリはいつでも、みんなにどっさりと食べ物を分けてあげるのです。実は、ワミリは自分でとった獲物の肉を食べることはありませんでした。ワミリは肉よりも、ワラタという花の蜜が好きで、それさえあれば満足でした。 その昔、ワラタの花はコスモスのようなありふれた花でした。でも、夏になると、おいしい蜜がたっぷりとれたのです。ワミリは狩りに出かけない時はいつも、ワラタの花畑の中ですごしていました。

そんなある日、ワミリはみんなと狩りに出かけ、嵐にまきこまれてしまいました。急に真っ黒い雲が出てきたかと思うと、雷が鳴りひびき、稲妻があちこちで光りました。みんなにげまどっていると、恐ろしいことに、ワミリに雷が落ちてしまったのです。 ワミリは気をうしない、たおれてしまいました。だれにもどうすることもできませんでした。命だけは助かったものの、ワミリの目はまったく見えなくなってしまったのです。 目が見えなくては獲物の足あとをたどることも、得意のやりを投げることもできません。狩りの名人の目が見えなくなるなんて、なんてあわれなんでしょう。 それでもワミリは日ごとに元気をとりもどし、なんとか動けるようになりました。 「ああ〜〜、何かあまいものがほしいな」 目は見えないものの、ワミリは花の蜜のにおいにさそわれるように外へ出ました。そして、いつも行っていたワラタの花畑に向かったのです。

ワミリは花畑に出かけてみたものの、そこでワラタの花を見つけるのはかんたんなことではありませんでした。 目が見えないワミリが手さぐりで見つけたものは、たいていはちがっていました。ワラタのような形の花はたくさんあったからです。 食べてみると、にがくてまずかったり、中には毒のある花もあったりして、ワミリは病気になってしまうことさえありました。 ワミリの妻は、狩りにも行けず、好きなワラタの花の蜜も見つけられない夫をかわいそうに思いました。そこで、ある長老の話を聞いて、ブッシュ(注1)に住んでいるといわれる精霊(注2)に会いに行きました。でも、どんな姿をしているのかもわかりません。なかなか見つけられず、こまっていました。 「精霊さん、どうか出てきてください。あわれな夫を助けてくださいな」 とにかく、ことばをかけながらひたすらブッシュの中を歩きつづけました。 あたりが暗くなってきて、ほとんどあきらめて帰りかけたとき、何かが目の前にあらわれたのです。小さな精霊クィニーでした。 ワミリの妻は夫のこれまでの不幸を話しました。すると、クィニーはほかの精霊たちをよんで話しはじめました。 「目が見えなくても、ワラタの花を見つけやすいものに変えたらいいんじゃないかしら」 「そうだ、茎を一番長くしてみよう」 「花の形も変えましょう。小さい花はありふれていてわかりにくいわね。大きなものに変えましょう」 ワミリの妻は精霊たちに感謝すると、夫の待つキャンプに急いで帰りました。

次の日、ワミリの妻は精霊たちに言われたとおり、ワミリをブッシュにつれて行きました。すると、見たこともない花がたくさんあるではありませんか。 「ワミリ、新しい花よ!新しいワラタの花がこんなにたくさん……」 ワミリの手にさわらせてあげた花は、ワミリがかつて使っていたやりのように長く、また、花は両手で持ってもあまるぐらい大きな見事なものでした。 今でも、ワラタの花はブッシュの中でひときわ目立っています。精霊クィニーがつくった時の姿のままで……。(おわり)

  • 注1:低い木におおわれた茂み、やぶ
  • 注2:水の精、森の精などのような妖精のこと

 

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