オーストラリア時事英語あれこれ

〜豪州特有の英単語や言い回しからオーストラリアを知ろう〜

ATSIC アボリジニおよびトーレス海峡諸島人評議会…アッツィック

豪州屋

ATSIC は、Aboriginal and Torres Strait Islanders Commission (アボ リジニおよびトーレス海峡諸島人評議会)の略称です。"アボリジニお よびトーレス海峡諸島人"は、オーストラリアの先住民族を指す一般的 な呼称で、この評議会は先住民族から選出された評議員で構成され、こ れらの人々の利害を代表して発言し、また一定の自治権を行使すること になっていました。

1987年ホーク労働党政権の下で設立準備が始まり、1990年から 活動していた ATSIC ですが、ついにこの四月、ハワード保守政権によ り廃止が決定されました。

 もともと、法的にはオーストラリアは英国人入植当時、所有者のいない 土地であったとされており(1992年の有名な「マボ判決」により撤 回)、憲法は「人口計算にアボリジニは含めない」と規定するなど、連 邦レベルでは先住民はほとんど無視されていました。いきおい先住民政 策に連邦政府は一切タッチしない法制度でした。それが1967年に憲 法が改正され、それまで州の専轄事項だった先住民政策の権限が連邦に も一部移管されました。

連邦政府の「アボリジニおよびトーレス海峡諸島人省」が担当していた 先住民政策の立案・執行を、先住民自身の手に委ねようというのが ATSIC 設立の趣旨でしたが、慢性的な予算不足や地縁血縁頼りの不透明 な選挙、評議員の無責任な行動などの問題を当初から抱え、最近になっ て議長のレイプ犯罪疑惑、副議長の横領疑惑などが続出、ついにハワー ド首相が「この社会実験(social experiment = このような先住民族に よる国家レベルの自治は世界的にも類例の少ない先駆的なものであった のでこのような表現になりました)が失敗であったことはもはや誰の目 にも明らかだ」といって廃止を決断したのです。

もっとも、この制度改変が実際にどのような影響を先住民コミュニティ ーに及ぼすかは疑問です。先住民族は以前から全国平均より20年以上 も短い平均寿命や低い識字率、高い犯罪や薬物依存の発生率に象徴され る深刻な社会問題に悩まされていますが、それらの問題に最も関連が深 い保健衛生・教育政策は州の管轄とされてきていました。ATSIC はその 政策決定になんら関わることができず、そのため先住民族の生活に目に 見える改善をもたらすことができなかったことが、同組織への幻滅を促 したとも言えます。

行政サービスの提供はすでに2003年から連邦政府内の「アボリジニお よびトーレス海峡諸島人サービス(ATSIS)」に移管されています。今後 はどのように先住民の意思を汲み上げ、国政レベルで反映させていくか、 政府ばかりでなく国家全体として民主主義の成熟度が問われそうです。

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